鉄道会社の新入社員研修は?その3(組合問題とブラック企業)

入社式新入社員研修についての記事を書きましたが、今回はその続きです。

労働組合についての研修

これまで鉄道会社の労組について語ってきたが、筆者が入社直後に組合についてどう習ったかを書いていきたいと思う。

複数の組合

ある日の講義では、労働組合について学ぶことになった。
世間の人の一般的な労働組合のイメージは、会社に一つ存在し賃上げ交渉をしたり、社員の要望を経営陣に伝えるための組織というくらいの認識だろう。

鉄道会社の労働組合も勿論そのような活動を行っているが、変わっているのは組合が複数存在することだ。

会社が一つであれば組合も一つであるというのが一般的だと思われているが、鉄道業界では複数存在することが多い。

ちなみに、航空業界も複数の組合が乱立しており、組合問題は根深い。少し前に映画化もされていたが、沈まぬ太陽という小説がわかりやすいだろう。この小説のモデルはJ○Lと思われるが、複数ある組合間の争いが経営破綻の一因となっていることがわかる。

詳細は別の機会に書くこととするが、国鉄にも複数の組合が乱立し、これが国鉄崩壊の一因ともなっている。

民営化により組合は統一されつつあったが、結局は分裂し現在の姿に落ち着いている。

第一組合とその他組合

複数の組合があるが、全ては平等ではなく組合によって力の差がある。

会社は第1組合(最も多数派の組合)と手を結んでおり、その他の組合は迫害され気味である。例えば、新入社員研修においても第一組合(A組合としよう)の良さと他組合の悪さが強調される。

「B組合は○○だからダメである、C組合は××だからダメである。だから皆さん我々A組合に入り、共に会社を良くしていきましょう!」
といった内容の講義が行われる。

ここで思い出すのが入社式での出来事だ。会場の外の道路にいたのは、B組合やC組合の活動家達だった。

会社としては手を結んでいるA組合以外の組合に新入社員を取られてはたまらない。
だから話しかけられても答えてはいけないといった注意がされたのだ。

また手ぶらで会場に向かわせたのも、ビラを受け取ってもすぐに没収できるようにとの目的だったのだろう。

鉄道会社において組合問題は絶対に避けられないものである。
職場によってはB組合やC組合の活動家がまだまだ存在しており、表立っては差別といったものはないが、
「あの人はB組合だから、あまり関わらないように」
と釘を刺されることもある。

ブラック企業の研修?

新入社員研修の最後に、研修グループ毎に社訓を唱和し、会社で働く上での目標を全員の前で発表するというイベントがあった。

ちなみに、新入研修自体は1ヶ月程度のものだったが、入社式から研修期間を通して筆者は鉄道会社の異様さにかなり疑問を抱いており、もはや会社で働く目標や前向きなモチベーションを失っていたが、仕方ない…

グループの他のメンバーは、戸惑ってはいたものの基本的にやる気に満ち溢れており、最後のイベントに向け練習を頑張っていた。

社訓自体は項目も多くはないが、似たような言い回しが多いため一字一句正確に覚えるには苦労する。

一日の研修でへとへとになりながら、夜遅くまでグループで目標についての話し合いと、唱和の練習を行う。

発表の会場であるホールでもリハーサルが出来るとのことで、私達のグループも一度見ておこうかと会場に向かう。

会場の扉を開くと、中から声が聞こえる。

「私達のグループは○○を目標として、○○という夢を実現します!」

一方担当の講師は、「まだまだ声が小さい!」とダメ出しを行う。
一時期ブラック企業が話題になり、ワ○○や○将等の研修がテレビで放送されていたのを異様な光景だなと他人事のようにニュースを見ていたが、まさにそのような光景が目の前に繰り広げられているのだった。

とんでもない所に入社したのかもしれない…異様なところに入ってしまったという感覚と後悔が徐々に膨らんでいく。

「鉄道人」を育成するための研修

新入社員研修はまるで軍隊&ブラック企業の訓練に近いものだった。

鉄道はもともと軍事輸送を担っており、戦後は元軍人を多数採用したため、このような風土が残っているのかもしれない。

また高校や大学を出たての遊び盛りの若者たちを、短期間で使い物にするという目的に対しては、このような手段が有効だと考えているのだろう。

ちなみに、世間一般で行われている研修は全く行われない。名刺の渡し方、電話の取り方、メールの送り方、社内の人との付き合い方、etc…これらのビジネススマナーについて学ぶ機会は、研修期間中全く存在しなかった

習ったのは、時間に遅れないこと、大きな声を出すこと、上の命令には確実に従う事など、どちらかと言えば小学校や部活でやるようなことである。

確かに鉄道の現場において、時間を守ったり、大きな声を出したりすることは必要であるため、理にはかなっている。また、社外の人と付き合うこともほとんどないので、ビジネスマナーなども必要ない。

この研修は「社会人」を育てるのではなく、「鉄道人」を育てるための研修であるといえるだろう。

鉄道会社で「ビジネス」をやろうとしている人に認識してほしいのは、鉄道会社に入ったとしても、ビジネスをすることは決してなく、厳然としたヒエラルキーがある閉鎖的な世界で、鉄道のオペレーションに関わる人生を送ることになる。

「鉄道人」になりたい人には、おススメできるが….

“鉄道会社の新入社員研修は?その3(組合問題とブラック企業)” への9件の返信

  1. 一般人が見れば異様な光景でしょうね
    ただ鉄道という特殊で閉鎖的な職業につくにはそういった研修が合っているのでしょう

    1. 鉄さん
      コメントありがとうございます。

      私自身もかなり驚いた覚えがあります。えらい所にきてしまったなと…
      おっしゃる通り、狭い世界なので洗脳をするような研修があっているのかと思います。洗脳でもしないと、みなさん頭が良いので色々気づいてしまうでしょうしね。

  2. 2019年卒で西日本の某大手鉄道会社(技術系プロ採)に就職予定の者です。
    このブログを読みはじめてから自身の将来が非常に不安になりました、、。

    1. TKさん
      コメントありがとうございます。

      就職予定の会社さんがどうなっているかは存じませんが、おそらく似たような事態に直面することはあるでしょう。
      ただ、ある程度知ってからだと、こんなものかと割り切ることも出来るので、ショックは少なくなるかと思います。
      かなり特殊な環境ではありますが、よっぽどのことがなければクビにならないし安定もしているので、適当に割り切って生きていくのがベストな選択肢かと。
      私の場合は割り切れず、飛び出してしまいましたが…

      1. お返事ありがとうございます。
        たしかにショックは軽減されると考えられますね、、。
        私自身大学では外国語をずっと専攻していて、今まで学んだ知識を仕事に活かせないことへの抵抗感が今でもあります。
        そのため、割り切れずエスケイプさんと同じ道を歩むかもしれないです。笑
        今後のブログ記事を楽しみにしています。これからも貴重なお話を聞かことができたら幸いです。

        1. TKさん

          落差が大きいと結構引きずりますからね笑
          鉄道会社の場合は学生時代の専門を活かす機会はほぼないと考えてよいでしょう。
          外国語もお客様案内をする際には使うかと思いますが、今はタブレットなどで自動翻訳することも多いですし、ビジネスとして使うことはあまりないかと思います。
          ちなみに、割り切るのであれば早い方が良いですね。正直、外の世界では役に立たないスキルしか身につかないので、転職に苦労します笑
          引き続きぜひよろしくおねがいします!

  3. こんばんは。
    来年から関東の大手私鉄の現業職で働く者です。
    色々会社の事を調べていくうちにこのブログに辿り着きました。
    私は現在専門学校に通っており、今年に会社より内定を頂いたのは良いものの、嬉しかったのはほんの少しの間で、そこから会社の事についてより深く調べていくうちに鉄道会社の実態を知ってしまい、今は鉄道業界で働く事に対するモチベーションがほぼ皆無です。
    会社について徹底的に調べた分、恐らく入ってからのギャップがあまり無いのは良い事かもしれませんが、長続きしない気がしてとても不安です…。
    入社してから上手く立ち回る為のアドバイス(?)などを教えて頂けると嬉しいです。
    よろしくお願い致します。

    1. nagoyaXantaresさん
      コメントありがとうございます。

      来年就職されるんですね。就職説明会やOB説明会では基本的に良い所しか言わないので、それだけじゃないだろということを伝えたくて記事を書いたりしています。

      一概には言えませんが、最初の頃は上から言われたことにはひたすら従っていくのが無難ではないかなと思います。
      とりあえず、職場の上司や先輩のいう事は聞いておく、組合の集まりには参加しておく、など。
      最初から目立ったり、自分の考えを通そうとしたりすると必ず叩かれてしまいますから。良くも悪くも年功序列の世界なので、ある程度たつと細かく言われることもないですし、
      環境にも慣れてくるので自分なりの生き方というものは見つかってきます。
      私の周りでも、出世や上司に気に入られることは諦めて会社の仕事は適当に(手を抜くという意味ではないです)やって、趣味の世界に生きるという人はいました。
      このブログではマイナス面ばかり書いていますが、良い面ももちろんあります。
      給料の未払いや賃金カット、急な解雇などはほぼ聞いたことがありませんし、その辺のブラック企業よりはよほどマシです。
      やってみてダメそうなら、違う会社に行けばいいわけですし、nagoyaさんもどこかで割り切れるポイントは見つかるかもしれません。
      前向きな話しか知らないで入ってみて、ギャップに驚いて辞めてしまう人も割といますが、
      逆にマイナス面も知って入った方が、覚悟が出来ている分長続きするのかと思います。
      もしダメなら辞めるという選択肢もあるわけですし。。。

      あまりまとまらずすみません。答えられる範囲ではお答えしますので、いつでも気軽にコメント&メッセージください!
      またツイッターもやってますので、そちらでも大丈夫です!

      1. 返信して頂きありがとうございます。
        ツイッターの方もフォローさせて頂いておりますので、また何か聞きたい事があれば質問させて頂きますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m

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