鉄道会社の新入社員・就職希望者におススメの本

以前一度、鉄道会社の内定者や新入社員、就職希望者向けにおすすめの書籍を紹介した。

今年はコロナにより大学の授業開始が遅れたり、外出自粛により自宅で暇を持て余している人も多いだろう。

Twitterでは内々定者向けにお勧めの本を紹介してほしいとの質問もあった。

内々定者や鉄道業界志望者向けに、鉄道会社の実態を知られるような本を紹介したい。読みやすい本から読み応えのある本まで様々だが、どれも暇つぶしと会社理解の参考になると思う。これを機会に読んでみてはいかがだろうか。

組合関係の勉強

まずは鉄道会社の組合について詳しく書かれた本を紹介しよう。主にはJR東日本の最大組合だったJR総連系の東労組についての本になる。

今は社友会という組織が会社と手を組んでいるが、それまでは「革マル」とった過激派左翼集団が浸透していた組合と手を組んでいた。世界最大の鉄道会社であり、経済の中心である首都圏の輸送を担っていたJR東日本に過激な組織が浸透していたとは、にわかには信じられない話である。

このような異常な状況になってしまった経緯や、東労組の実態について詳細な調査に基づいて書かれた本が以下の3冊である。

異様としか言いようがない歪んだ労使関係、他労組に所属する同期と出掛けただけで執拗に嫌がらせをされるほどの排他性、監視の目がないのをいいことに莫大な組合費を好きなだけ使うまるで独裁国家の支配者のような組合幹部、etc…

JR東日本にとっては少し前の話だが、JR北海道はまだまだ続いている話である。平成の世も過ぎ、民営化から30年以上も経過したのにもかかわらず。

JR本州三社の関係性(国鉄改革から現在に至るまで)

次に質問でも良く来るのが、JR東日本とJR東海の比較である。

この2社はお互い首都圏の鉄道と、東海道新幹線という巨大な輸送網を持っており、互いに日本一の鉄道会社という自負があるためか、ライバル心が強い。

外から見ても、お互いが反目し合っているのがわかるのか、JR東日本とJR東海は仲が悪いのですか?といった質問はかなりくる。

現場社員間でいがみ合う事は少ないが、少なくとも幹部レベルではお互いを良く思っていないことは確かである。

最大の理由は、やはり組合問題である。様々な経緯があるためここでは詳細は書かないが、JR東日本は革マルが浸透していたJR総連系の組合、JR東海とJR西日本はそことは完全に手を切ったJR連合系の組合と手を結んでいる。

要は過激派に屈したJR東日本と、それに真っ向から対抗したJR東海・JR西日本の争いという事である。

またそれ以外にも、東海道新幹線品川駅建設に関する土地問題等、事あるごとに主導権争いをしてきた。

この辺りの詳しい内容が、実際に国鉄改革を主導しJR東海に長年君臨してきた名誉会長の葛西敬之氏によって書かれている。

JR東海に新入社員として就職する人は課題図書になっているため、 就職前から読んでおいても損はないだろう。

鉄道の安全・事故

鉄道会社で働くにあたり、絶対に損なっていけないのは安全である。

明治時代に日本最初の鉄道が開業して以来、数えきれないほどの鉄道事故と犠牲者によって今日の鉄道の安全は成立している。

大きな鉄道事故なんて、戦前や戦後のまだまだ日本の技術が未発達で物資も足りない頃に起こっていたんじゃないの?今どき事故なんて起こることないでしょ?と考えられていた時期に起こったのが、2005年4月25日に発生したJR西日本の福知山線脱線事故である。

107名という多大な犠牲者を生んだこの事故は、鉄道事故は技術的面だけではなく、組織的な原因によっても引き起こされるという教訓を与えた。

確かに技術は発達したが、それを使う人間がちゃんとしていなければ、全く意味がないのである。

おそらくどこの鉄道会社に就職することになっても、最初に頭に叩き込まれるのは「安全第一」の思想である。

過去に起こった鉄道事故を学ぶ機会も多いだろう。会社によっては事故についての展示をわざわざ設けている所もあるし、実際の事故現場に社員を派遣することでその凄惨さを目の当たりにさせる所もある。

鉄道会社への就職を志望する人は、鉄道の安全の裏側には多大なる犠牲があり、自身が一歩間違えれば悲惨な事故を起こしてしまうという、責任重大な仕事であることを認識した方が良いだろう。

入社前から、または入社してすぐにでも事故の歴史を学ぶことは重要だ。

鉄道会社の関連事業

鉄道会社は鉄道だけではなく、不動産やホテル・商業施設・娯楽施設等多岐にわたる。

JR各社は国鉄民営化によって関連事業の制限が解かれ、様々な事業を手掛けるようになった。会社によってその真剣度合いに差はだいぶあるが、本州JRは本業の鉄道事業で多額の利益を稼ぐことが出来るため、関連事業はどうしても後回しになりやすい。

近年多少は変わってきたものの、鉄道会社内において関連事業は傍流である。民営化当初、余剰人員の姥捨て山とみなされており、そこで働く社員のモチベーションも低かった。

しかしJR九州はそうではなく、本気で鉄道一辺倒の会社から脱出しようともがいていた。当時新幹線はもちろんなく、山手線のような収益路線もほとんどない。国からは「三島会社」として実質見捨てられたような状況で、経営の自立などは夢のまた夢だった。

しかし2016年には念願の株式上場を果たし、完全民営化することが出来た。

事業環境の違いはあるものの、同じような状況だったJR北海道やJR四国とは大きな違いである。

JR九州の努力や苦悩等がわかりやすく示された書籍である。読みやすいので、一気に読めると思う。JRの中では一番「経営」をやっている会社だと、個人的には考えている。

たくさん紹介したが、是非GWの共に読んでみてほしい。

鉄道会社の組合はどんなもの?その4(どの組合に入ればよいか)

以前から鉄道会社の労働組合については色々と記事を書いてきた。

大きく内容をまとめると、①鉄道会社への就職=労働組合への加盟(第一組合員に非ざれば人に非ず)、②組合活動は政治活動(団結ガンバロー)、③労働組合は巨大集金装置、である。

2020年5月現在、今年入社した新入社員の方々はもう組合への勧誘が本格化してきた頃だろうか。あるいはもう既に組合加盟の手続きをしてしまった後だろうか。

結論から言ってしまうと、鉄道会社に就職するにあたって組合に入らないという選択肢はない。ただし、入る組合を間違ってはいけない。会社と手を握っている組合に入らなければ、鉄道人生はそこで終了である。

今回はJR本州各社において、どの組合に入ればよいかをそれぞれ紹介しよう。

JR東日本:社友会

JR東日本に就職した場合、厳密に言えば組合に加盟する必要はない。これはJR各社の中でも異例の存在である。

しかし組合の代わりに、「社友会」という組織があり、組合ではなくここに加盟する必要がある。

元々は、東労組(東日本旅客鉄道労働組合)・国労東日本(国鉄労働組合東日本本部)・東日本ユニオン(JR東日本労働組合)など計8つの組合が存在した。(同じ会社に8つも組合があること自体意味が分からないのだが…)

が、さらにそれも分割し、現在は11の組合が存在している

出所:東日本旅客鉄道株式会社IR資料

このうち、東労組(とうろうそ、と読む)というJR総連系の組合が最大勢力で、会社側ともべったり組んでおり、この組合に入っていなければ人に非ずといった権力を誇っていた。

この辺りの経緯は書くと長くなるので別の記事で紹介しようと思う。

しかし、2018年に東労組が計画したストライキが失敗したことを発端に、この最大組合は分裂した。この辺りの経緯は、「JR東日本 ストライキ 失敗 分裂」等でググってみれば詳しく出てくるだろう。

要するに、過激な行動を起こして”古き良き”労働運動というものをやりたがった組合幹部に、大半の若手組合員がついていけず大量に脱退したということだ。

5万人近くもいた組合員が、現在は1万人を切っている。大幅な脱退だ。

東労組と内心手を切りたがっていた会社の人事労務系の勢力が背後で糸を引いていたという話もあるが、おそらくは今の2~30代の社員にとって、馬鹿げた権力闘争や労働運動等は時代錯誤であり、加齢臭がする労働組合に付き合ってられないという空気が大きかったと思われる。

この最大勢力の東労組が無くなった受け皿として、会社側が用意した団体が「社友会」である。東労組程の組織ではないが、会社側が手を組んでいる組織なので入るよう誘導されるだろう。特に総合職は下手に自分で考えて組合を選ぶのではなく、会社と手を結んでいる団体に入らなければ永遠に出世の芽は無くなるので気を付けよう。

JR東海:JR東海ユニオン

JR東海に就職した場合、JR東海ユニオンへの加盟が必要だ。

JR東海には、JR東海ユニオン(東海旅客鉄道労働組合)、国労東海(国鉄労働組合東海本部)、JR東海労(ジェイアール東海労働組合)、建交労東海(全日本建設交運一般労働組合東海鉄道本部)の4つの組合が存在する。

出所:東海旅客鉄道株式会社IR資料

最大勢力はJR東海ユニオンであり、ここが会社と手を組んでいる組合となる。

入社した人はここ以外の組合に入ることは許されない。というか、JR東海の場合は他労組が新入社員を加盟させる隙を作らない。研修期間中は他労組の社員が新入社員と接点を持つことはないし、現場配属後も徹底的に監視される。

よほど会社に不満があり、自ら他労組に加盟を申し出ない限りはほぼ確実に他労組に加盟することはないだろう。

こういった徹底した労組対策が功を奏し、JR東海の労働組合は比較的安定している。約95%がJR東海ユニオンであり、他労組の高齢化は著しい

その余裕からか、少数組合に対する表立った弾圧もそこまで見られない。また組合活動もそこまで政治的な色は強くない。どちらかといえば、団結を深めるための軍隊的な行動が多い印象がある。

他労組の定年退職が進み次第、単一組合へと収束していくのではないだろうか

こういった環境のため、他労組に入った瞬間に干されることは確定である。普通に勧誘されるままにJR東海ユニオンに入るのが安定した鉄道人生を送るために必須である。

JR西日本:JR西労組

JR西日本に就職した場合は、JR西労組(にしろうそ、と読む)への加盟が必要である。

JR西日本には5つの組合がある。JR西労組(西日本旅客鉄道労働組合)、国労西日本(国鉄労働組合西日本支部)、JR西労(ジェーアール西日本労働組合)、建交労西日本鉄道本部( 日本建設交運一般労働組合西日本鉄道本部)、動労西日本(国鉄西日本動力車労働組合)である。

出所:西日本旅客鉄道株式会社IR資料

このうち最大勢力はJR西労組であり、会社と手を組んでいる。

JR連合というJR東海と同じ上部組織を持つ組織であり、その成り立ちも含めJR東海の労働組合と雰囲気は似ている。

入社するとここ以外の組合に加盟することが許されないのはJR東海と同じである。また、JR西労組の組織率は95%程度と非常に高くなっており、JR西日本も単一組合へといずれは収束していくだろう。

ただし、JR西日本はJR東海ほど労組対策は徹底されておらず、他労組も比較的自由に動けている(といってもそこまで積極的なわけではないが)。

これには理由があり、JR西日本は他労組(JR西労)の運転士を自殺に追い込んでいる。詳しくは書かないが、労組が異なるという理由で日勤教育をはじめとした不当な待遇を受け続けた結果、ある運転士が自殺したという事件である。裁判にもなったが、会社側の責任は問われていない。

また、福知山線脱線事故の影響も大きいだろう。あまり監視を強めすぎると、社員が暴走して重大事故につながりかねないという認識が会社にもあるのではないだろうか。

いずれにせよ、JR西日本も最大労組であるJR西労組に加盟するしか選択肢はない。ここもJR東海と同じく政治色が強い過激な組織というわけではないので、まだマシだろう。

まとめ:最大組合に入るしか選択肢はない

ここまでJR本州三社の組合事情について書いてきたが、これはJR北海道やJR四国、JR九州、JR貨物においても同様だ

それぞれ最大勢力の毛色は違うにせよ、第一組合に入らなければまっとうな鉄道人生は歩めない。会社に不満があるからといって、下手に感化され勢いだけで組合を移ることは決してしてはならない。

会社側の意向をよく見極め、どの組合が力を持っており、出世につながるかを見極めることが重要だ。

しかし、冷静に考えてみれば同じ会社内に複数組合が存在し、事業で他社と競争するのではなく、社内で組合同士でいがみ合うというのもおかしな話だ。

特に、JR東日本の組合事情は現在かなり入り乱れている。東労組の分裂から2年経ち、分裂した組合が更に分裂を繰り返すなど、内ゲバばかり繰り返している

くだらない権力闘争に巻き込まれたい人なんて皆無だろうが、鉄道会社に就職した以上どうしてもどこかで組合と関わらざるを得ない。自分の利得のみを考えて生きていくことがベストだが、職場の人間関係等色々なしがらみから、中々そうはいかないことも事実だ。

また、鉄道会社に総合職として就職した人は、組合こそが会社の主要な業務だという事を認識する必要がある。鉄道事業の海外展開や関連事業の開発、輸送の未来を考える等、大きな夢を持っている人が大半だろう。

しかし現実は、時間の無駄にしか思えない調整業務や組合との折衝だ。自分の所属する組合だけでなく、各組合の動向は嫌でも学ばなければならないし、いずれ管理職になってくると各組合とのつながりは避けられない。くだらない内容がほとんどで時間の無駄に思えることばかりだろうが、鉄道会社イコール組合である。組合対策をやって給料をもらっているといっても過言ではない。

総合職・現業職関係なしに組合は絶対に避けられない。旧態依然とした組織ではあるが、それが鉄道業界の「常識」なのである。世間と同じ感覚を持っていては務まらない仕事である。

それを認識したうえで、皆さんもうまく会社・組合と付き合っていってほしい。