以前から鉄道会社の労働組合については色々と記事を書いてきた。
大きく内容をまとめると、①鉄道会社への就職=労働組合への加盟(第一組合員に非ざれば人に非ず)、②組合活動は政治活動(団結ガンバロー)、③労働組合は巨大集金装置、である。
2020年5月現在、今年入社した新入社員の方々はもう組合への勧誘が本格化してきた頃だろうか。あるいはもう既に組合加盟の手続きをしてしまった後だろうか。
結論から言ってしまうと、鉄道会社に就職するにあたって組合に入らないという選択肢はない。ただし、入る組合を間違ってはいけない。会社と手を握っている組合に入らなければ、鉄道人生はそこで終了である。
今回はJR本州各社において、どの組合に入ればよいかをそれぞれ紹介しよう。
JR東日本:社友会
JR東日本に就職した場合、厳密に言えば組合に加盟する必要はない。これはJR各社の中でも異例の存在である。
しかし組合の代わりに、「社友会」という組織があり、組合ではなくここに加盟する必要がある。
元々は、東労組(東日本旅客鉄道労働組合)・国労東日本(国鉄労働組合東日本本部)・東日本ユニオン(JR東日本労働組合)など計8つの組合が存在した。(同じ会社に8つも組合があること自体意味が分からないのだが…)
が、さらにそれも分割し、現在は11の組合が存在している。
このうち、東労組(とうろうそ、と読む)というJR総連系の組合が最大勢力で、会社側ともべったり組んでおり、この組合に入っていなければ人に非ずといった権力を誇っていた。
この辺りの経緯は書くと長くなるので別の記事で紹介しようと思う。
しかし、2018年に東労組が計画したストライキが失敗したことを発端に、この最大組合は分裂した。この辺りの経緯は、「JR東日本 ストライキ 失敗 分裂」等でググってみれば詳しく出てくるだろう。
要するに、過激な行動を起こして”古き良き”労働運動というものをやりたがった組合幹部に、大半の若手組合員がついていけず大量に脱退したということだ。
5万人近くもいた組合員が、現在は1万人を切っている。大幅な脱退だ。
東労組と内心手を切りたがっていた会社の人事労務系の勢力が背後で糸を引いていたという話もあるが、おそらくは今の2~30代の社員にとって、馬鹿げた権力闘争や労働運動等は時代錯誤であり、加齢臭がする労働組合に付き合ってられないという空気が大きかったと思われる。
この最大勢力の東労組が無くなった受け皿として、会社側が用意した団体が「社友会」である。東労組程の組織ではないが、会社側が手を組んでいる組織なので入るよう誘導されるだろう。特に総合職は下手に自分で考えて組合を選ぶのではなく、会社と手を結んでいる団体に入らなければ永遠に出世の芽は無くなるので気を付けよう。
JR東海:JR東海ユニオン
JR東海に就職した場合、JR東海ユニオンへの加盟が必要だ。
JR東海には、JR東海ユニオン(東海旅客鉄道労働組合)、国労東海(国鉄労働組合東海本部)、JR東海労(ジェイアール東海労働組合)、建交労東海(全日本建設交運一般労働組合東海鉄道本部)の4つの組合が存在する。
最大勢力はJR東海ユニオンであり、ここが会社と手を組んでいる組合となる。
入社した人はここ以外の組合に入ることは許されない。というか、JR東海の場合は他労組が新入社員を加盟させる隙を作らない。研修期間中は他労組の社員が新入社員と接点を持つことはないし、現場配属後も徹底的に監視される。
よほど会社に不満があり、自ら他労組に加盟を申し出ない限りはほぼ確実に他労組に加盟することはないだろう。
こういった徹底した労組対策が功を奏し、JR東海の労働組合は比較的安定している。約95%がJR東海ユニオンであり、他労組の高齢化は著しい。
その余裕からか、少数組合に対する表立った弾圧もそこまで見られない。また組合活動もそこまで政治的な色は強くない。どちらかといえば、団結を深めるための軍隊的な行動が多い印象がある。
他労組の定年退職が進み次第、単一組合へと収束していくのではないだろうか。
こういった環境のため、他労組に入った瞬間に干されることは確定である。普通に勧誘されるままにJR東海ユニオンに入るのが安定した鉄道人生を送るために必須である。
JR西日本:JR西労組
JR西日本に就職した場合は、JR西労組(にしろうそ、と読む)への加盟が必要である。
JR西日本には5つの組合がある。JR西労組(西日本旅客鉄道労働組合)、国労西日本(国鉄労働組合西日本支部)、JR西労(ジェーアール西日本労働組合)、建交労西日本鉄道本部( 日本建設交運一般労働組合西日本鉄道本部)、動労西日本(国鉄西日本動力車労働組合)である。
このうち最大勢力はJR西労組であり、会社と手を組んでいる。
JR連合というJR東海と同じ上部組織を持つ組織であり、その成り立ちも含めJR東海の労働組合と雰囲気は似ている。
入社するとここ以外の組合に加盟することが許されないのはJR東海と同じである。また、JR西労組の組織率は95%程度と非常に高くなっており、JR西日本も単一組合へといずれは収束していくだろう。
ただし、JR西日本はJR東海ほど労組対策は徹底されておらず、他労組も比較的自由に動けている(といってもそこまで積極的なわけではないが)。
これには理由があり、JR西日本は他労組(JR西労)の運転士を自殺に追い込んでいる。詳しくは書かないが、労組が異なるという理由で日勤教育をはじめとした不当な待遇を受け続けた結果、ある運転士が自殺したという事件である。裁判にもなったが、会社側の責任は問われていない。
また、福知山線脱線事故の影響も大きいだろう。あまり監視を強めすぎると、社員が暴走して重大事故につながりかねないという認識が会社にもあるのではないだろうか。
いずれにせよ、JR西日本も最大労組であるJR西労組に加盟するしか選択肢はない。ここもJR東海と同じく政治色が強い過激な組織というわけではないので、まだマシだろう。
まとめ:最大組合に入るしか選択肢はない
ここまでJR本州三社の組合事情について書いてきたが、これはJR北海道やJR四国、JR九州、JR貨物においても同様だ。
それぞれ最大勢力の毛色は違うにせよ、第一組合に入らなければまっとうな鉄道人生は歩めない。会社に不満があるからといって、下手に感化され勢いだけで組合を移ることは決してしてはならない。
会社側の意向をよく見極め、どの組合が力を持っており、出世につながるかを見極めることが重要だ。
しかし、冷静に考えてみれば同じ会社内に複数組合が存在し、事業で他社と競争するのではなく、社内で組合同士でいがみ合うというのもおかしな話だ。
特に、JR東日本の組合事情は現在かなり入り乱れている。東労組の分裂から2年経ち、分裂した組合が更に分裂を繰り返すなど、内ゲバばかり繰り返している。
くだらない権力闘争に巻き込まれたい人なんて皆無だろうが、鉄道会社に就職した以上どうしてもどこかで組合と関わらざるを得ない。自分の利得のみを考えて生きていくことがベストだが、職場の人間関係等色々なしがらみから、中々そうはいかないことも事実だ。
また、鉄道会社に総合職として就職した人は、組合こそが会社の主要な業務だという事を認識する必要がある。鉄道事業の海外展開や関連事業の開発、輸送の未来を考える等、大きな夢を持っている人が大半だろう。
しかし現実は、時間の無駄にしか思えない調整業務や組合との折衝だ。自分の所属する組合だけでなく、各組合の動向は嫌でも学ばなければならないし、いずれ管理職になってくると各組合とのつながりは避けられない。くだらない内容がほとんどで時間の無駄に思えることばかりだろうが、鉄道会社イコール組合である。組合対策をやって給料をもらっているといっても過言ではない。
総合職・現業職関係なしに組合は絶対に避けられない。旧態依然とした組織ではあるが、それが鉄道業界の「常識」なのである。世間と同じ感覚を持っていては務まらない仕事である。
それを認識したうえで、皆さんもうまく会社・組合と付き合っていってほしい。