このブログは外からはわからない鉄道会社の実態を伝えることを目的としたブログだが、インターンに行けば実態がわかるのでは?という意見もよく聞く。
確かに最近はJR・私鉄共にインターンをやる会社が多く、学生の業界理解の助けになっていることは間違いないだろう。
しかしインターンは所詮はインターン。今回はインターンではどのような事をやって、それが実態とはどう違うかを紹介しよう。
1.傍からみるとかなり本格的
多くの鉄道会社が「業務理解を深めてほしい」「会社で働くイメージを持ってもらう」「より実際の業務に近いことを体験し志望度を上げてもらう」等と称してインターンをやっている。
今回は代表例として、JR東日本とJR東海の最新のインターンシップ内容を見てみよう。
JR東日本だと大きくはビジネスマネジメント(事務系)とテクニカルマネジメント(技術系)の2つ、JR東海だと事務・運輸・施設・車両・電気の5種類と採用系統と同じくくりになっている。
2019年度のJR東日本インターンシップ
2019年度のJR東日本ビジネスマネジメントの項目を見てみよう。
5日間で経営戦略や事業戦略等のテーマについて調査しプレゼンを行うといった内容だ。これだけ見ると、かなり本格的な内容に見える。自分たちのグループが会社の方向性を決定するようなプレゼンを行うわけだし、JR東日本という大企業のインターンなので、なんだかすごそうな印象を受ける。
この中では、経営企画・国際事業・観光戦略・事業創造あたりが人気だろう。「戦略」「創造」「国際」等の言葉は、学生への訴求効果は十分にある。
採用側としても、やはり優秀な学生を採用したいという想いが強く、優秀な学生が惹かれそうな言葉選びをしているのだろう。
また、技術系であるテクニカルマネジメントの方も、期間が10日間程度と長く、本格的な内容に見える。最近流行のIoT・ビッグデータ・AI等、押さえておかなければならないワードがちりばめられている。
やはり日本一の鉄道会社だし、技術力も圧倒的に高く、最新技術も積極的に取り入れる柔軟性を兼ね備えているように見える。
これらのテーマについて、昼間は学生同士のグループワークで議論し、たまに社員がフィードバックを行う。定時後は担当の社員を交えて懇親会と称し飲みに行く、というのが一般的な流れだ。
2019年度のJR東海インターンシップ
今度は、2019年度のJR東海事務系統のインターンシップを見てみよう。
こちらも、施策の立案や駅ビル・販売戦略等、学生の目を引くような内容になっている。JR東海の場合は4日間研修所に泊まり込みで行う事もあり、より濃厚な時間を過ごす内容となっている。
また、JR東海の場合は、インターンシップのページに体験記も載せられており、研修所の中身などは多少参考になるだろう。
https://saiyo.jr-central.co.jp/internship/report/
2.実態は本格的な業務体験とは遠い
これまで見てきたように、外から見ると本格的だ。JRの総合職の業務は非常にダイナミックかつ先進的で、実際にJRで働く場合のイメージが出来そうだな、と思った方がほとんどだろう。
しかし、インターンシップはインターンシップでしかないのだ。そもそも5日や10日程度で実態を把握できるわけないという話もあるが、それ以外にも以下の点で大きく実態とは異なっている。
① 実際に現場で働く社員と接することがない
実際に現場で働く社員とほぼ接さないという点で、鉄道会社で働くことの実態とは大幅にかけ離れている。
接する総合職の社員は、人事部付でリクルーターをするような社員で、かなりの割合で会社への忠誠心も高く、本当に良い会社だと思って学生に接している人だ。(まれにリクルーターでも忠誠心は低い人もいるが、仕事なので本音は表には出さない。)
更に、就職して最初の数年間は現場配属となり、総合職と共に働く機会はほぼない。現場社員の大半は現業職であり、いつも顔を合わせて一緒に働くのは現業職の社員である。彼らは全く表に出てこない。
これまで紹介した2社のインターンでも、現場見学という点で実際に働く社員と接するではないか、という反論はあるかもしれない。
しかし、あくまでそれは外向きの態度であり、大抵の場合は採用側もリスクを避けるためにモデル的な現場社員を外に出している。それだけを見て、現場の雰囲気は良さそうで、最初数年間現場配属だとしても自分はやっていけるだろう、と考えるのは安易としか言いようがない。
実際は総合職だからといって現業社員から妬まれたり、飲み会に付き合わないとノリが悪いという噂を流されたり、あることない事の噂を流す社員等、色々な社員がいる。
結局、インターンで出てくる社員は、外向きに作られた表面的な社員であり、社員の大半を占める所謂「ふつう」のJR社員からは隔離されている。つまり会社が用意した「温室」で純粋培養されているような状態なのである。
② 業務内容を盛りすぎている
また、「戦略」「創造」「IoT」等、言葉だけ見てみると進んでいるなぁと思うかもしれないが、実態は別である。
そもそも、グループ売上げの6割以上を占めている鉄道事業は戦略の立てようがない。誰に、何を、どのような武器を使って売り、どのように競合に勝ち、どの程度の業績を目標とするか、というのが一般的な戦略であるが、鉄道はほぼ独占であるため、本格的な戦略を立てる必要はない。
お盆やGW、年末年始等の繁忙期やイベント時に列車をどのように増発するか、といった内容を「輸送戦略」と言ったりするが、実態は過去の経験からある程度増発する幅は決まっているし、あとは関係箇所に手配をする調整業務でしかない。
また、切符の販売戦略といっても、新たな旅行商品を作って関係会社の旅行代理店で売る程度で、別にターゲットも販路もなく、こちらも戦略とは言い難い。
関連事業の事業戦略はあるではないか、と思われるかもしれないが、駅ナカ商業施設や駅ビルの中でどんなテナントを入れるかというだけの話で、自分が持っている土地のため地代がかからないまま、なんとなくそれっぽい事業をやっているというだけの話である。
立地や固定費削減などの概念はほぼないし、正直な所いくつか事業がこけたとしても、本業にはそこまで影響がないのである。鉄道という安定収益源を持っている以上、どうしても道楽的になってしまうし、それで済む状況があるため、本格的な戦略立案などいらないのだ。
ただ、JR九州等、本気で関連事業に社運を賭している企業もいる。元社長の様々な著書があるが、他のJRに比べて本気で市場で勝負にでて勝ちを収めている。まあ、これは例外だろう。
とにかく、なんだかすごそうに聞こえるが、実態はいかに安定収益源である鉄道事業を安全・安定に回していくかというオペレーション業務が中心であり、学生が想像するような先進的な内容は実際の業務ではほぼないといってよい。
③ デメリットは一切表に出さない
最後に、実際に働く際のデメリットは一切出てこないことが一番の問題だ。
まずあるのが、組合問題である。最近JR東日本は組合が崩壊し、異常ともいえる労務関係がある程度は解消したが、それでもJR東日本に異様な労務状態があることは間違いない。また、JR東海や西日本でも、組合対策に力を入れ過ぎたせいで、軍隊的な労務管理になっていることもある。
鉄道会社の仕事の大半は労務管理であり、労務管理と組合対策は切っても切れない関係である。特に事務系の人事や輸送系に入ると、細かい点でも組合との折衝が必要となってくるため、組合とどう付き合うかについて頭を悩ます時間がほとんどだ。
そこに大学時代に身に付けた論理的思考力や語学力等は全く役に立たない。しかも、ビジネススキルが身につくわけではなく、俗人的な人間関係に基づいた交渉力や仕事の進め方しか身につかない。
また、体育会系・軍隊系な社風も伝わらないだろう。現場だけでなく本社・支社においても年功序列が強く、表向きは若い力を~とは言っているものの、未だに古い価値観が強い。
最初に配属される現場では特に強く、仕事が出来る出来ない以前に、先輩に対する挨拶や態度、言葉遣いや出勤時間(新人は2時間前出勤)等が見られる。しかも、それが勤務評価にもつながるから、手を抜くこともできない。
こういった環境に馴染むことが出来ず、精神を病んでしまう人も少なくないが、そのような採用に都合の悪い情報は決して明かされることはなく、入社して現場配属になってから初めてその状況を知るという事は全く珍しい事ではない。
3.自分で情報収集するしかない
これまで書いてきたように、会社側が提供するインターンシップの機会は、全く業務実態を表しているとは言い難い。
採用側からしてみれば当たり前で、この年には何人確保しなければならないという採用目標を埋めるためにどんな訴求をしていくか、という点のみが注力すべき所で、学生がどのような人生を送るかについては全く興味がないのだ。
本当にその人自身の事を思ってくれるなんて甘いことはなく、いかに優秀(そう)な学生を沢山入社させるかがインセンティブになっている。それによって社員の評価が決まり、昇給やボーナスの査定に関わるから当然だ。言ってしまえば、赤の他人より自分の食い扶持である。当然の話だが。
結局、自分の人生に責任を持てるのは自分だけだし、自分の身は自分で守るしかないのだ。
私のブログが少しでも参考になれば幸いです。