どんな人も子供の頃、電車の運転士に憧れたことはあるだろう。特に男の子であれば一度はなりたいと思うに違いない。
実際、将来就きたい職業ランキングでは10位以内に入っている。
また、なってみれば(あくまで今のところだが、)意外と給料も悪くはない。
では、電車の運転士になるにはどうすればよいのだろうか。
今回は一人の運転士として、列車を動かすまでにどのような過程を踏めばよいのかを紹介してみる。
1.鉄道会社に就職する
運転士は国家資格
運転士は国家資格であるため、実際の路線で列車を運転するためには、国土交通省の地方運輸局が発行する免許が必要になる。
自動車を運転するためには、教習所に通い、試験を受けて免許を取得するのと同じである。
運転士の免許は動力車操縦者免許と呼ばれ、国土交通省が指定する養成所で指定の教育を受けた後に、実習を行うことで取得できる。
国土交通省が指定する養成所は、鉄道会社の研修施設内にあるため、まずは鉄道会社に就職することが第1歩である。地方の規模が小さい私鉄だと、自社で養成せずに大手の鉄道会社に研修を委託している場合もある。
また国家資格であるため、鉄道会社に就職せずとも独学で勉強を行い、試験に通ることで免許を取得することも、理屈上では可能であるが、机上教育ならまだしも、実際の路線上で練習をすることが出来ないため、現実的には不可能であり、費用も莫大となるためこれまで個人で取得した事例は筆者は聞いたことがない。はっきりはしないが、現在は法的にも鉄道事業者に所属しなければ取得不可と変わったかもしれない。
自動車でいえば教習所に通わず、免許センターへ直接試験を受けるようなものだろうか。しかし鉄道の場合はよりハードルが高いだろう。
1人の運転士を養成するのに1,000万円?
ある鉄道会社が少し前に、自費での運転士養成を募集し、実際に数名が運転士となったが、数百万円もの自己負担があったようだ。
筆者自身も社内で、運転士を一人養成するためには1000万円近くの金がかかっている、という言葉を聞いたこともある。
のちに詳しく述べるが、訓練期間中は単に座学を受けているだけだったり、実際の路線を運転していても、指導役が横についている。事故や異常時の訓練のための運転シミュレーターも莫大な費用が掛かる。人件費や教材費を合わせると、そんなもんだろう。
このように運転士を一人養成するためには、莫大な時間と金がかかるため、個人では到底不可能である。
入社後の配属を勝ち取れ
話が逸れてしまったが、運転士になるためには、とにかく鉄道会社に就職する必要があるという事だ。
しかし、入社したからといって安心はできない。まずは配属というハードルをクリアする必要がある。
鉄道会社は駅、輸送、保線、電力、車両など様々な系統ごとに採用を行っており、入社後すぐに系統が決められるが、最初に入った系統から異動することはほぼ確実に無い。このため運転士になるためには、まず輸送系など運転士に関係のある系統に配属されなければならない。これが第1のハードルである。
運転士になりたい人が、入社後の配属で輸送系の部門に配属されず、何度か上司に相談したものの結局異動もかなわず辞めてしまったこともあるようだ。
とにかく、入社前から輸送系の職種を志望しておき、面接や配属の面談でもそれを言い続けるのが良いだろう。
2.駅員・車掌になる
さて、運良く輸送系の部門に配属されたとしても、いきなり運転士の養成コースに入ることは出来ない。
駅員→車掌をまずは経験
会社によっても異なるが、基本的に駅員→車掌というように段階を経ていき、各段階で少なくとも2年程度は経験を積ませるため、高校を卒業して18歳ですぐに入社し、最短でステップを踏んでも養成コースに入るためには23~4歳になっている。
駅員や車掌は運転士に向けた一つのステップに過ぎないと思う方もいるだろう。
しかし車掌になるためにも社内の筆記試験や面接試験があり、遅刻歴がないか、ひどいミスをしていないか、接客態度に問題はないかといった、普段の勤務態度を勘案したうえで試験の合否が決められる。
遅刻があったり、勤務態度が悪いとその時点で乗務員としての適性がないとみなされ、試験を受けることすら出来ないから要注意だ。
ほぼ対策できない適性検査
また車掌を含め乗務員になるためには、医学適性検査や運転適性検査といった検査も通過する必要がある。
医学適性検査の細かい内容は会社ごとに異なるが、視力や聴力、色覚、遠近感や睡眠状態、果ては脳波まで細かく検査される場合もある。これらは生理的なものだし、訓練してどうにかなるものではない。
運転適性検査は、クレペリンという瞬時の判断力や作業の正確性を見る検査であり、検索をしてもらえば詳細はわかると思うが、非常に精神を消耗する検査である。
これらの検査の合格基準は知らされておらず、これといった対策を立てることは困難だ。
稀に、これらの検査を通過することが出来ずに、乗務員を諦める人もいることもある。
3.運転士養成コースに入る
まずは運転士コースの登用試験
車掌を数年経験した後、特に問題なく業務をこなしており、上長からの推薦があれば運転士養成コースに入るための試験を受けることになる。
この試験も車掌と同様に、筆記試験や面接試験があり、社内通信研修の受講なども必要となる。普段の勤務態度や遅刻歴が重視されることは言うまでもない。
ちなみに、JR東日本は車掌・運転士の登用試験を来年にはなくすので、試験についてはハードルが無くなる。
運転士と車掌の名称廃止へ JR東日本、登用試験もなくす(共同通信)
10回近くこの試験を受験したにもかかわらず、特に目立った理由もないのに落とされている人もおり、俺は諦めて車掌を続けるよ、といった人もいる。
また、車掌になるときと同様に、ここでも適性検査を受けさせられる。車掌の時よりも基準が厳しい場合があり、運転士になるために会社に入ったにもかかわらず、適性検査に合格することが出来ず、会社を辞めていった人もいる。
合格しても先輩の順番待ち
養成コースに合格したとしても、要員の都合上すぐに研修施設に入れるわけではなく、長ければ1年以上待たされることもある。
試験に合格して喜んだものの、結局今までと同じ仕事を1年近く続けており、結局なんだったんだ。。。?と思うこともあるだろう。
関門はまだまだ続く
ここまで書いたように、運転士になるためには時間もかかるし、それなりのハードルを越えてこなければならない。
しかし、ここまで書いたのは、養成コースに入るまでの過程であって、コースに入ったからといって必ずしも全員が運転士になれるわけではない。
次は、机上研修と、最もハードルが高い実地研修について書いていこうと思う。