前回の記事では、鉄道会社は世間で言われているような「まったり高給」ではない事を紹介した。
大企業だから高給だろうと入ってみると全くそうではない、入社前には会社からは決して話されることがない裏側について紹介した。
しかし、職種によっては色々な手当がつき、多少給料が良くなることもある。今回は、その中でも最も大きい、乗務員手当について紹介しよう。
「乗務員手当」はどう計算するのか
鉄道会社には様々な手当が存在するが、最も大きな手当は、運転士や車掌が乗務した時に支給される「乗務員手当」だ。
これは大まかに言えば、乗務時間と距離に応じて支給される手当であり、基本的には以下の式で計算される。
・乗務員手当総額=①1か月あたりの乗務時間・距離 × ②時間・距離単価
それぞれの項目についておそらく鉄道会社に勤めている人以外は聞きなれないと思うので、簡単に解説してみよう。
①乗務時間・距離とは
乗務時間とは、運転士や車掌が実際に乗務している時間と距離の事である。
乗務とは、運転士であれば実際に列車を運転している時間、車掌であれば列車に乗っている時間で、1分単位で計算される。
乗務員は一度出勤すると乗務を何度も繰り返す(一日の乗務をまとめたものを「行路」という)ので、それが全て乗務時間・距離として加算される。
行路によって乗務時間と距離は決まっているので、その人がどの行路に乗務したかがわかれば、自動的に1か月あたりの乗務時間と距離はきまる。
また、混雑や事故などのトラブルで列車が遅れて乗務時間が伸びた場合、その時間ももちろん超勤として乗務手当がつく。
これは自分で申請する必要があるが、1分単位できっちりと申請している人もいれば、1時間以上でなければ面倒だからしない!と言っている大雑把な人もおり、結構性格が出ていたように思う。(本当はきっちり申請するのがあるべき姿だが。。。)
実際に、ある運転士の乗務をみてみよう。
・A駅:9時34分発 → B駅:11時05分着 の列車に乗務
・途中混雑によって10分の遅延があり、B駅には11時15分に到着
・A駅・B駅間の距離:65Km
この場合の乗務時間・距離は次のようになる。
・所定乗務時間:91分+超勤時間:10分 = 乗務時間:101分
・乗務距離:65Km
ちなみに、ホームで自分が乗る列車を待つ時間や、折り返しの時間も勤務時間に含まれる。
例えば上の例でいうと、A駅9時34分発の列車がA駅に9時30分に到着する場合、その5分前の9時25分にはホームに出ていなければならない、という規則もある。
この5分は勤務時間には含まれるが、乗務時間には含まれないので、乗務手当の対象にはならない。
これらを積み重ねて、1ヶ月あたりの乗務時間が決まり、給料に反映される。
②時間・距離単価とは
手当の単価は、1時間当たり・1Km当たりで決まっており、運転士と車掌それぞれでも異なる。
大体の会社において、運転士の方が車掌よりも単価が高い。
また、田舎の路線だとワンマン運転を行っていることも多い。ワンマン運転とは、車掌がおらず運転士のみが乗務している列車で、車内放送やドアの開閉も運転士一人で行う列車である。
運転士が車掌の業務も行うため、普通の運転士の単価よりも高くなる。
つまり単価が高い順には、ワンマン運転士>運転士>車掌、となる。
また、早朝や深夜は単価もいくらか割増しとなるため、始発や終電に乗務した場合、体力的にはつらいが金銭的には美味しい。
乗務員手当で月10万円の加算も?
以上のような仕組みで計算された乗務員手当は、有給や日勤を含まずフルで乗務する場合、1ヶ月あたりで3~8万円程度にはなるだろう。
特に、ワンマン列車に乗務したり、列車が遅れて超勤したり、災害で緊急出勤した運転士の場合、多ければ手当だけで10万円を超えることもある。
若くて体力のある社員で、いつでも呼び出しに応じられるように職場の近くに住み、呼び出しがあればすぐに対応している人もいた。
職場の勤務を管理する係長や助役からしても、こういった人は使いやすいので結構呼び出されており、割と手当を多く支給されていたといううわさもあった。
鉄道会社で最も美味しいのは乗務員をやり続けること
以上のように、乗務員、特に運転士は手当も厚いため頑張れば年収もそこそこ貰える。
係長や助役に昇進せず定年まで運転士を続けている人で、年収1000万プレーヤーもいるという話も聞いたことがある。
管理職になると基本給は上がるが乗務手当には及ばないため、現場の運転士や車掌から文句を言われながら、それより安い給料で仕事をしなければならないという理不尽な状況もあり得る。
一方、乗務員は現場の最前線にいるという自負があるため、「管理側は乗務員の大変をわかっていない!」「現場を見ていないくせに机上の話ばかりするな!」「我々は命をかけて安全輸送に臨んでいるから待遇を上げるべき!」などと好きなだけ言いたいことを言える。
高卒で最速で運転士になった場合、30歳になるころには年収600万円近く貰える可能性も高く、同じ年の総合職よりも、場合によっては年収が高くなる。
しかも慣れてしまえば一人の仕事だし、人間関係に悩まされることもない。上司からうるさく指示されることはないし、会社側には好きな事を言える。トラブルがなければ残業をする必要もないし、定時になればきっちり帰れる。(というより、乗る列車がないので残業は出来ない)
総合職やそのほかの事務職ではそうはいかない。嫌な上司でも机を並べて仕事をしなければいけないし、うかつに意見や文句を言うこともできない。場合によっては残業もしなければならないし、職場によってはサービス残業もまだまだある。
こうして考えてみると、鉄道会社で最もおいしいのは、総合職でも管理職でもなく、高卒で就職し最速で運転士になり定年まで乗務し続けることである。
しかし、今後もおいしい話が続く可能性は低い
これまで見てきたように、特に運転士は美味しい職種だと言えるだろう。
しかし、今後それが続く保証はどこにもないし、乗務員ならではのリスクもある。
乗務員の勤務や生活は非常に不規則であり、泊まり勤務の場合多くても仮眠は4時間程度の場合が多い。また、決まった時間に起きたり寝たりすることもなく、休憩も不規則で食事もとれないほど短いこともある。
眠気を感じてオーバーランや放送し忘れをしてしまえば、重い処分も下る。ミスをかばってくれる人は誰もいないのだ。
トラブルが起きれば車両に缶詰めになり、おかしな乗客からの罵詈雑言にさらされることも多い。駅ならまだしも、列車内だと一人で対処しなければならない。
最悪、列車事故を起こしてしまう可能性もあり、そうなった場合は警察に捕まるし、自身の命を落とす危険性もある。
また、乗務員手当が廃止される可能性も高い。JR東日本は、将来的に乗務員手当の廃止や削減を見直しているという話もあり、他の会社でも手当を削る流れも出てきている。
確かに、昔であれば電車の仕組みが複雑で覚えることも多く、車両の個体差も大きいためブレーキなどの技術もかなり必要だった。
しかし今の車両は性能が向上しており、操作も簡単になっているため、昔に比べるとおもちゃのようなものだ。車両が故障することも少なく、仮に故障しても機械が自己診断し自動で指令に情報を送り迅速な対応が可能となっており、運転士や車掌が自身の知識で対処しなければならないことはかなり減っている。
更に、列車の自動運転も検討されており、実現すれば乗務員としてのスキルはほぼ必要なくなっていくだろう。
そうなってくると、乗務員に手厚い手当を支給する理由がなくなり、乗務員手当は削減ないしは廃止という流れは避けられない。
以上のように、美味しい話は今後10年持つかはわからない。
手当が廃止されないことに懸けて鉄道会社の乗務員になるか、責任は重く給料も安いがネームバリューはある総合職として入社するか、もしくは鉄道会社以外に就職するか、よく考えて将来を選択してほしい。
“鉄道会社の給料 -実はおいしいのは運転士?-” への1件の返信