鉄道会社の組合はどんなもの?その3(強制加入と膨大な組合費)

鉄道会社の組合活動=政治活動であることを以前紹介しました。なぜ、そこまで大規模な活動ができるのか?今回は組合への強制加入と社員が徴収されている組合費の実態について紹介します。

労働組合へはほぼ強制的に加入

鉄道会社に就職すること=労働組合に加入することについては既に紹介した通りである。

建前上は、労働組合への加入は自由であり、どの組合を選んだとしても不都合にならないというオープンショップ制をしいているが、実態は異なる。筆者も半強制的にある組合へと加入させられた。

組合への加入手続き

新入社員研修が始まりしばらくしてから、先輩社員主催の懇親会を行うという事で、本社近くのホテルへとバスで異動させられた。なぜか出発前に講師から、「筆記用具と印鑑を持っていくように」という指示が下される。

単なる懇親会なのに変な指示だな、と思いつつも指定されたものを持って会場へと向かった。

新入社員全員が会場で指定された席に座ると、司会の人から今回の懇親会の趣旨について説明が始まった。

「今日は皆さんに、労働組合というものについて知ってもらおうと思います。」

懇親会のはずなのに、なぜ?と同期と顔を見合わせていると、同じテーブルの先輩社員が何やら紙を出して説明を始める。

「ブラック企業って最近よく聞くよね?君たちもこれから会社で働くことになるけど、給料が払われなかったり、不当な命令をされたらいやだよね?」

「でも、そういうことが起こってしまったとき、私たち社員が一人で会社に抗議するのは難しいでしょ。」

「だから社員が団結して、会社に社員の声を届けることが必要だね。そのための組織が労働組合なんだ!」

とまあ、テレビショッピングのような茶番、もとい出し物が目の前で繰り広げられる。懇親会とは一体なんだったんだろうか?出された飲み物や食事に手を付ける暇もなく、先輩の出し物は続けられる。

「こういう組合がないとどうなると思う?会社はきっと、僕たち社員に平気で無理難題を押し付けてくるよね」

「もしかしたら、賃金が未払いになるかもしれないし、不当にクビにされちゃうかもしれないよね?」

「そういうことが起こらないよう、社員側も団体となって力を持つ必要があるんだ!」

とまあ、こんな具合である。いつの間にか、控えていた別の社員が入会届をテーブルに配っていく。先輩たちは、僕らの話に共感してくれたら目の前の書類にサインして印鑑を押してくれと言っている。

ここで初めて印鑑と筆記用具を持っていくという意味が分かった。

まさかこの雰囲気で断る人間がいるわけもないし、実際私も組合が怖い会社から自分を守ってくれると信じていた。(実際は、肝心なところは抗議してくれることもなく、会社の他に組合という大規模な組織の面倒な関係まで加わり、負担は増えただけなのだが…)

まるで新興宗教

学生からしてみれば、社会人とは何かよくわからないまま話が聞かされるのだ。新興宗教の勧誘と同じで、閉鎖的な空間に身を置かせ、入らない事の恐怖を煽り、選択肢を示さないで入会させる。

会社側ももちろん承知の上である。研修担当の講師が筆記用具と印鑑を持っていくことを伝えているのだから。他の組合と接さないうちに、研修所から会場までバスを用意するほど徹底している。入社してすぐに、これから長く続く茶番は始まっているのだ。

結局、私も同じテーブルにいた同期もよくわからないままサインして印鑑を押して入会していた。ちょっと宗教チックだが、まあそこまで影響はないだろうとその時は思っていた。

その後、毎月引かれる決して安くない組合費と、わけのわからない活動に駆り出されてつぶされる休日を体験し、影響の大きさを実感することとなるのだが…

組合費の実態

晴れて(?)労働組合に加入したことで、毎月の給料から組合費も天引きされることとなった。

別の機会に紹介しようと思うが、鉄道会社の給料は決して高くない。総合職だからといって昇給幅が大きいわけではなく、手当がつくわけでもない。色々引かれた結果の給与明細を見て、衝撃を受けた覚えがある。

この少ない給料から引かれる組合費だ。そこまで負担ではないと思うかもしれないが、実態は違う。

組合費は決して安くない

会社によって異なるが、基本給の数%程度が毎月給与から天引きされる。筆者は大体、6~7千円もの組合費が天引きされていた。少し年次が上の人だと、月1万円近く払っているという事も聞いたことがある。

月6千円なのだから、年間約7万円程度が組合費として消えていくのだ。これは意外と大きい。

最初は疑問に思わなかったが、別の業界に努める友人に話すと、高すぎじゃない!?と驚かれた。複数の友人に話を聞いたが、せいぜい月2~3千円程度だった。

ちなみに、厚生労働省の統計では、月3,574円/人が平均であるから、世間の企業のおよそ倍程度の組合費を毎月払っているのだ。

平成28年 労働組合活動等に関する実態調査 結果の概況

組合費に見合う対価はあるのか?

これだけ高い組合費を払っているのだから、きっとその対価も大きいのだろう。毎年の昇給が大きかったり、手当が増えたり、etc…

全くそんなことはない。毎年、2~3月の年度末に近づくと、会社と組合が交渉を行い次年度の基本給やボーナスについて妥結する。

組合は「ベースアップ達成!労働者の勝利!」などと、自分たちの成果を強調するが、せいぜいベースアップは月1,000円程度である。

各労組のHPには大々的に成果が掲載されているが、働く社員からしてみると馬鹿らしい額だ。

月6,000千円支払って、月1,000円のリターンである。それを強調されても…というのが素直な感覚ではないだろうか。

組合費はどこへ消えているのか

大手の鉄道会社であれば、社員数が1万人を超え、関連会社を含めれば数万の社員を抱える。

全員が組合に入っているとし、平均組合費が8千円だとすれば、月8千円×3万人=2.4億円/月もの組合費が徴収されている。年でいえば、約30億円(!)が組合費として納付されるのだ。

これはあまりに大きい額である。へたな中小企業よりもよっぽど儲けている。その割に、組合費の使い道は各労組のHPを見ても明記されていない。一体どこへ消えているのだろうか。

組合の事務所は大抵会社内の施設にあり、賃料もたかが知れている。消耗品もそこまで多いわけではない。

組合のイベントにも金がかかるが、大きいのはやはり政治活動だろう。これには、前に書いたようなデモへの参加やビラ配りもそうだが、支持する政治家や政治団体への献金も含まれる。

以前、ある労組のある政治家への不正献金が疑われたこともあるが、おそらくこれは氷山の一角だろう。

組合専従という生き方

また、普通の会社では信じられないと思うが、組合専従というのも存在する。

つまり、あまりに活動を熱心にし過ぎてしまい、組合専従、つまり会社を休職し組合活動に専念する人の事である。

休職している間の給料は、組合員から毎月徴収している組合費から支払われるため、生活に困ることはない。

本来の会社の仕事をしないで活動ばかりしているのにもかかわらず、給料だけは組合費から払われるので、普通に仕事をしている人からしてみれば、理不尽じゃないか!と思うこともあるかもしれない。

しかしそんなことを発言することは許されない。むしろ普通の仕事をしており組合活動まで手が回らない、一般の組合員の分まで活動を頑張ってくれているのだから、感謝しなければならない、という風潮すらある。

組合費は本当に適切なのか

このように、組合には多額の不明瞭な金が動いている。本当にこれが健全な姿と言えるのかは疑問ではある。

確かに、労働者の権利を守っている側面もあるが、それとはかかわりのない部分にも多数の金が使われている可能性も否定できない。

だが、鉄道会社の場合、組合自体が大きな組織であるため、会社に対して物は言えても、組合に対して物を言えなくなってしまうことも往々にある。

会社と組合、二つの大きな組織との付合いを考える必要があるため、鉄道会社の人生は難しい。

組合費は高すぎだし、多額の金を徴収している以上使途も明確化すべきではないだろうか。

少し古い本だが、最大の鉄道会社の組合の実態を取材した物もあるので、ぜひ読んでほしい。組合幹部のための別荘や、派手な不動産など、いかに多額のカネが裏で動いているのかがよくわかる。

今後、鉄道会社への就職や転職を考えている人たちは、以上のような実態を踏まえて就職や転職を行ってほしい。

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