前回の記事では鉄道会社の体育会系な社風について紹介した。今回はJR各社や私鉄にありがちな、保守的な風土について語ってみようと思う。
人間関係だけではなく仕事の進め方について知っておくことも、これから鉄道会社に就職を考えている学生や、転職を考えている人にも参考になると思う。
仕事の基本は「安全第一」
鉄道を動かす上で最重要視されるのが安全である。何しろ、百トンを超える鉄の塊が時速100Km程度で走っているのである。下手をすれば一度の事故で100人以上の死者が出る。
よく言われるのは、「鉄道の歴史とは事故の歴史である」という言葉である。普通に電車に乗っている分には意識することはないが、列車が一本走るためには予想以上に多くの安全対策が施されている。
例えば、非常用ドアコックというものがある。会社や車種によって場所は異なるが、大体はドアの近くによくあるアレだ。鉄道の安全に対する設備の中では、割と身近な部類に入るのではないだろうか。
ドアコックの整備と位置表示の明確化がされるようになった理由は、死者を多数出した1951年に発生した桜木町事故である。
簡単に事故を紹介すると、列車に火災が発生したが様々な理由からドアを開けることが出来ず、多数の乗客が焼死してしまった凄惨な事故である。この対策として、何かがあった際に、乗客が脱出できるようにしたのが非常用ドアコックである。
これによって非常時の車外への脱出が簡単になったのだが、簡単に脱出出来るようになった結果、また別の悲惨な事故も起きている…
鉄道事故について書いていくとキリがないのだが、こういった事故があるたびにそれに対する対策を打っている。鉄道の様々な設備は、過去の事故の教訓から整備されているものなのだ。
過去の教訓を活かし、今後悲惨な事故を起こさないために、JRや私鉄などの鉄道会社に入社し、一番最初に教育されるのは「安全第一」なのである。
日本の鉄道は世界一安全と言われているが、それは日々の社員の努力と、過去の悲惨な事故の犠牲があって成り立っているのだ。
これは非常に価値のあることで、安全に早く移動できるのは実は当たり前ではないのである。そういった環境で働くことは大変なプレッシャーだが、同時に社員の誇りともなっているのだろう。
新しいことに対して非常に消極的
これまで書いてきたように、鉄道会社では常に物事を安全方向に考えることが求められる。確かに安全は非常に価値のあることだが、同時に非常に保守的になってしまうという負の側面もある。
JRや私鉄の鉄道部門では、少しでもリスクが考えられる場合は、新しい施策は実行されない。何かに挑戦し失敗するといったことは許されないのである。
仮に新たな施策を実行しようとしても、少しでも関係する箇所には根回しを行い、通達を出し、更に労使交渉を進め、といったように多くのプロセスを踏む必要があるため、実行に非常に時間がかかる。
こんな手間をかけるくらいなら今のままで上手くいっているわけだし、何もしないでおこう、という考えに至るのは自然の流れである。
運輸系統などの鉄道の最前線であればまだ仕方がないと思えるのだが、事業開発系や新規事業などの部門でも保守的な風土に染まってしまっている。
東急電鉄など鉄道部門よりも不動産や商業施設などの関連部門の比率が高い大手私鉄場合は異なるが、JR各社では事業開発系やITなど直接的に鉄道と関係ない系統で入社をしても、必ず最初は鉄道員としての基礎を叩き込まれ、数年は鉄道現場の最前線を経験する。
社会人としてスタートした時に、安全第一でミスをしないことを徹底的に叩き込まれるのだ。これでは新しいことは出来ないし、決まったことを決まったようにやるようになる社会人が出来てしまう。
大事なのは、ミスをしない・波風を立たせない精神
こういった考え方は非効率的で面白くないと思うかもしれないが、いざ失敗をした時の影響の大きさを考えると、仕方のない事である。
鉄道会社においては、新しいことに挑戦する精神よりもミスをしない・起こさないといった考え方が重要である。
鉄道会社は採用活動において、新たなことに挑戦するマインドを持った人材を求めていると謳っており、会社の上層部も保守的な思考のままではいずれ限界を迎える事も理解している。
しかし実際は、現状を維持することにほとんどの労力を割かなければならず、挑戦することが出来る環境にはまだまだ遠い。
逆に言えば、規則さえ守って日々の業務をこなしていれば、一定の評価を得られ、安定した収入を得られるという、考えようによっては非常に楽な仕事である。
IT系や外資系の企業では、成果を出さなければ解雇されたり、減給されたりといったリスクは存在するが、鉄道会社にそのリスクはない。
現業機関にいる間は規則をしっかりと守り、ミスをせず、目立った言動や行動を避け、管理側に立ったら現業機関の要望に丁寧に耳を傾けるといった姿勢が総合職には重要である。